大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7567号 判決

原告

小谷野真造

ほか一名

被告

朝日自動車株式会社

ほか一名

第一主文

一、被告会社は各原告に対し、各金一八六、五一〇円およびこれに対する昭和四三年一月一〇日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告らの被告会社に対するその余の請求、被告原田に対する全請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告原田に対する訴の部分は全部原告らの負担とし、被告会社に対する訴の部分については五分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

四、この判決一項はかりに執行することができる。

第二本訴請求の趣旨

「被告らは連帯して、各原告に対し、各金三、二四九、六三九円およびこれに対する昭和四三年一月一〇日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。

第三争いない事実

一、死亡自動車事故発生

とき 昭和四三年一月三日午後九時頃

ところ 埼玉県川越市田町四―九先交差点路上

事故車 被告会社所有の埼玉五い一一四〇号

右運転者 被告会社の従業員被告原田、昭和九年四月二〇日生

受傷死亡者 亡小谷野稔(原付自転車本田スポーツ・カブ運転中)、昭和一九年一一月一一日生

態様 北進の事故車と南西進の亡稔の原付車と出会がしらの衝突をし、ために亡稔は左下腿開放性複雑骨折・腎損傷・腹部挫傷の受傷により同月九日午後六時すぎ死亡した。

二、責任原因について、

被告会社は本件事故車をその運行の用に供するものである。本件事故は被告会社の業務執行中の出来事であつた。

三、損害の填補

原告らは強制保険金三〇〇万円を受領している。

第四争点

一、原告らの主張

(一) 責任原因

本件事故は次のとおり被告原田の運転上の過失により発生したものであるから、被告原田は民法七〇九条により、従つてもとより被告会社は自賠法三条民法七一五条一項により、本件事故による損害につき賠償の責に任じなければならない。

すなわち被告原田は亡稔の進行路が優先道路であるから、一時停止して、前側方を注視し、亡稔の車の通過をまたねばならないのに、これを怠り漫然進行したため、亡稔の車の真横に事故車の正面左側ライトあたりを衝突せしめたものである。

(二) 損害

1 医療費 計二八三、四四五円

(1) 病院治療費 二四二、二二〇円

(2) 交通費 一二、〇四〇円

(3) 雑費 二九、一八五円

2 葬儀費 八三、八六〇円

3 逸失利益 七、一一八、四二三円

亡稔は死亡時二二歳の男子で志田土木工業所に勤務し、月収四二、〇〇〇円があつたから、平均余命四六・七一年の範囲内でなお四一年は稼働できた筈であるから、生活費一五、〇〇〇円を控除した純収益の現価をホフマン式方法により計算すると右のとおりとなる。原告らは父母として法定相続分に従い、右請求権を二分の一あて相続した。

4 慰藉料 計二、〇〇〇、〇〇〇円

健康で親思いの三男を失つた原告らを慰藉すべく、各金一〇〇万円が相当である。

5 車修理代 一三、五五〇円

二、被告らの主張

(一)、免責

本件事故はもつぱら亡稔の過失により生じたものであつて、被告らに何らの過失なく、また構造上の欠陥・機能の障害はなく、自賠法三条の責任を負うべくもない。

被告原田は、本件交差点で一時停止し、前方・左右の安全を確認し徐行して進入したところ、酒酔運転の上、許されない二人乗の亡稔車が猛スピードで疾走してきたので、被告原田は交差点やや中央附近で停車して、その通過を待つた。ところが亡稔車が徐行することなく暴走したため事故車に接触、そのはずみでその進行方向右側の電柱に衝突したものである。また被告会社は被告原田を雇入れる際には運転免許証の呈示をもとめて交通事犯の前歴の無いことを確かめているし、毎日自動車の整備を厳命し運転着手前にも安全運転を注意している。また事故車について定期の車両検査はもちろん、毎日整備をつくしており、事故後点検したところによつても何ら異常は認められなかつた。

(二) 過失相殺

かりに被告らに何らかの賠償責任があるとしても、前記のように亡稔の過失は重大であるから、過失相殺されねばならない事案である。

第五争点に対する判断

一、責任原因

(一) 被告原田の不法行為責任・被告会社の使用者責任は認められない。

本件現場は、北東から南西に向う幅員六・四メートルの歩車道の区別ないアスファルト舗装、国道一六号線(亡稔進行路)と、幅員約六・五メートルの同じく歩車道の区別ない南北のアスファルト舗装市道(被告原田進行路)とが斜に交差するいずれも両側に商店・住宅がたちならぶ交差点で、両者からする南東角は特に木材店の材木が積んであつて見通しが極めてわるい。そして市道の交差点手前には何れも一時停止の標識がある。

〔証拠略〕によれば、亡稔の車が左側を進行して交差点の数メートル手前にいたつたとき、はじめて事故車が一時停止もせず進入したため衝突したようにのべる。しかしながら一方〔証拠略〕によれば、被告原田は交差点手前で一たん停止し、安全を確認してから、亡稔のくる北東方(仲町方面)に右折しようとしたところ、道路右側(北側)を疾走してくる亡稔車が約四〇メートル手前にせまつてくるのを発見したので危険を感じ、これをやりすごそうと、センターライン手前でとどまつたところ、亡稔車が左(南側)にかたむいてぶつかり、その勢でさらに六メートル余り先の右側電柱に激突したとのべ、双方くいちがい、ともに利害関係の最も強い、本人ないし本人に準ずる身内の証人であるので、いずれにも心証を得がたく、被告原田の過失があつたものとは、本件立証の限度ではにわかに認定できず、結局証明不十分でその不法行為責任は認められない。従つて被告会社の物損に関する使用者責任も認めるによしない。

(二) 被告会社の運行供用者責任

しかしながら〔証拠略〕と現場の状況とてらしあわせてみると、被告原田が一時停止をせずに交差点進入をはかつたか、亡稔車の進行速度・方向の把握をあやまつたかのいずれかでないかとの疑念が全くないではなく、その点事故車側の運転上の注意をつくしたものとも、にわかに認定しがたく、その余の判断に及ぶまでもなく結局免責事由の立証がないものといえるので、被告会社は自賠法三条により人損の賠償をしなければならない責任がある。〔証拠略〕

二、損害

原告ら主張の範囲内で左の限度で認められる。

(一) 医療関係費 計二八二、一八〇円

原告らが二分の一あて負担した。

病院治療費 二四二、二二〇円

交通費・診断書代・輸血費・雑費 三九、九六〇円

(二) 葬儀費 計八三、八六〇円

原告らが二分の一あて負担した。

(三) 逸失利益 計四、三八〇、〇〇〇円

亡稔は事故当時、志田土木工業所に勤務し、月収四二、〇〇〇円の給与を得ており、生活費を差引いても年間二〇万円の純益を得た筈である。ところで同人は死亡時二二歳の健康な男子であつたから平均余命の範囲内でなお四一年間は稼働できた筈である。したがつて生存の場合の逸失利益の現価の総計を新ホフマン式計算によつて算出すると、右金額となる。

200,000×21.9=4,380,000

原告らは父母として、法定相続分に従い、右請求権の二分の一、すなわち二一九万円あて相続した。

(四) 慰藉料 計二、〇〇〇、〇〇〇円

三男を失つた父母としての原告らの傷心を慰藉すべく、各金一〇〇万円が相当である。〔証拠略〕

三、過失相殺

ところで本件事故については、亡稔は直前パチンコで遊んだのちビールをのんだ上での原付運転であつたこと、ほぼ交差点中央附近で事故車と接触し、なお六・六メートル、ななめ右に進行して電柱に衝突した点から、少なくとも時速四〇キロを下らない速度で徐行せずに見通しの悪い本件交差点に進入していること、などが認められるので、現場の状況などを考慮して、遺族である原告らの賠償請求権につき五〇%の過失相殺を行わねばならない。

そうすると各原告らの前記認定の損害合計(二の(一)、(二)、(三)、(四))金三、三七三、〇二〇円あての五〇%、金一、六八六、五一〇円あてが、原告らが請求できる額となる。これから強制保険金による填補額一、五〇〇、〇〇〇円あてを差引くと、未済残額は各原告につき、金一八六、五一〇円あてとなる。〔証拠略〕

四、結論

そうすると原告らの本訴請求は主文の限度で認容すべきである。

訴訟費用につき民訴法八九条・九二条・九三条、仮執行宣言につき同一九六条を適用した。

(裁判官 舟本信光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!